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東京高等裁判所 昭和28年(う)3833号 判決

控訴人 原審弁護人 坂上富男

被告人 桐生富次 外三名

弁護人 坂上富男

検察官 小西太郎

主文

被告人等の本件控訴はいづれもこれを棄却する。

理由

被告人等の本件控訴の趣意は、末尾に添附した弁護人坂上富男名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し次の通り判断する。

論旨三、について。

記録によると、被告人等に対する本件は、検察官から原裁判所に対し昭和二十七年十一月十七日公訴提起と同時に略式命令の請求があり、原裁判所はこれに基いて同年十一月二十四日被告人等に対する略式命令を発付し、該命令謄本は被告人桐生富次、同梨本平蔵に対しては同年十一月二十八日、被告人吉田与三郎、同阿久津又蔵に対しては同年十一月二十九日送達されたが、被告人等はいずれも同年十二月一日原裁判所に正式裁判を請求したので、原裁判所は爾後被告人等に対する本件を通常の規定に従い審判したものであることを認めることができる。しこうして記録中に検察官の科刑意見書、略式命令書が編綴されていることは所論の通りであるが、これらの書類は所論のように検察官から書証として提出されたものでないことは記録上明らかであり、右検察官の科刑意見書は検察官が成規の手続に従い略式命令を請求する以上、公判手続を経ないこととなり、科刑についての意見を述べる機会がないため、公判手続における意見の陳述に代えてこれを起訴状に添附して略式命令を請求したものであるからこれを起訴状に添附して置くことは当然であるし、略式命令書も亦これを編綴することにより、被告人等の正式裁判請求前の手続が適法になされたか否か、正式裁判をする裁判官の除斥事由の有無について記録上直ちに調査することができるのであつて、これらの書類はいずれも手続の経過に伴い当然存在を推断される書類であるから、これを裁判官に事件について予断を生ぜしめる虞ある書類ということはできないのである。すなわちこれらの書類は刑事訴訟規則第二百八十九条にいわゆる略式命令をするために必要があると思料される書類及び証拠物と異なり、正式裁判の請求のあつた後検察官に返還することを要する書類ではなく、これら科刑意見書及び略式命令書は正式裁判請求後においては記録中に編綴することを禁じた規定はないのである。しからばこれらの書類が記録中に編綴されていてもこれを以て刑事訴訟法第二百五十六条第六項に違反するものとは認められないから論旨は理由がない。

論旨二、について。

原判決が主文において被告人等に対し訴訟費用の連帯負担を命じているにかかわらず、法令の適用の部において刑事訴訟法第百八十一条第百八十二条の適用を示していないこと所論の通りである。しかし本案に対する上訴と共に訴訟費用の裁判に対し不服の申立があつた場合に本案に対する上訴が理由のないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立は不適法なものとしてこれを許すべきものでないから、本案の裁判についての論旨一、三、四、が前記のように理由のない本件においては、原判決が訴訟費用の負担について右のように法令の適用を遺脱していてもこれによつて原判決を破棄すべきものではない。従つてこの点の論旨も亦結局理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

弁護人の控訴趣意

二、原判決は法令の適用を遺脱した違法がある。即ち、判決主文に「訴訟費用(証人阿部吾一、同加藤貞次に支給したる分)は被告人等の連帯負担とする」と言渡しながら、法令の適用において刑事訴訟法第一八一条同第一八二条を適用しないで主文を言渡しておるのであつて右は法令の適用を遺脱した違法があるから、この点に於て破棄さるべきである。

三、原判決は裁判官が予断をいだいて判決した訴訟手続に違反がある。即ち、本件は何れも略式命令に対して異議申立をなし正式裁判になつたものであるが、裁判官は第一回公判前まで白紙の立場で予断をいだいて裁判をしてはならない処、本件記録には、起訴状の次に略式命令書、検察官の科刑意見書が綴込まれてある。裁判官はこの書証によつて、第一回公判前にすでに事件について予断をいだいていたものであつて右は刑事訴訟法第二五六条第六項に違反したものであつて、訴訟手続の違反であつて、破棄さるべきである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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